東京「お入院」生活  6・確率 

いねカット3

                  全然元気じゃねぇよ
              

長い長い夜をぬけるとそこは「安静解除」の瞬間だった。 (←雪国風)



私は朝8時の回診を何時になく浮き浮きしながら待っていた。

最初の準備段階から腎生検で1時間、その後の完全仰向け固定で6時間、その後の寝たきり状態で16時間・・・横になってから既に23時間が経過していた。
私の腰には鈍痛がへばりつき、病院の硬いベッドにぶつかる関節部分にもしつこい痛みが出始めていた。

あと少しでやっと解放される!!
カテーテル抜いて貰ったら自分でトイレに行こう!
自分でトイレに行けるってなんて素晴しいことなの!!

と、心も体も完全スタンバイ状態で担当医師ボーイズを迎える。

「nauさんお疲れ様でした。どうですか?調子は」
「やっぱり腰が痛くて。あとお腹の中の突っ張り感はまだありますけど・・・」

ボーイズのリーダーは聴診器を当て、二言三言もう一人の医師と頷きあった後に

「はい、お疲れ様でした、ちょっとゆっくり上体を起こしてみましょうか。そっとですよ、急にすると血圧が変化したりしますから。それで大丈夫なようなら安静解除です。管も抜いてもらいましょう」

と仰せになった。

私はもうホクホクしながらベッドの縁に手を掛けゆっくり起き上がった。
押し付けられていた背中に暖かい血がゆっくり巡るような気がした。
もう最高に気持ちがいい。鈍い痛みなどスーッと消えていくようだった。

まさに解放された瞬間だ。

その様子を確認して医師は「じゃあ後で看護師が来ますから管抜いてもらって下さいね」とカーテンの向こうに消えていった。


・・・ふー、やれやれ、やっと終わったよ。エライ目にあったもんだ。


私は人心地ついて座り直そうとゆっくり姿勢を変えた。

いや、変えようとした。その瞬間。

私を再び物凄い嘔吐が襲った。
咳き込むのと口の中から総てが吐き出されるのがほとんど同時だったと思う。
私はそのまま突っ伏したがカーテンの向こうに消えた医師が再び現れる様子はない。
この時嘔吐し続ける私にナースコールの存在は消えていた。

大量の吐瀉物を眺めながら、昨夜モヤモヤと感じていた「何かが変だ」という予感が当った・・・とぼんやり思っていた。

隣のベッドの品子さんのカーテンがシャッと開く気配がし、その数秒後に担当医師たちが駆け込んで私の状態を目の当たりに大騒ぎとなった。

私は早速レントゲンとCTを撮られた。

結果。

私の生検した腎臓から明らかな出血、そして血腫が出来ていることが判明した。
その血腫がどうやら何か刺激をして嘔吐感を呼んでいたらしい。

再びベッドに横になった私はぼんやりと担当医師からその事実を聞きながら、そういえば同意書の中の「合併症」にそんなケースが書いてあったのを思い出していた。
確か・・・「100人に2人」ほどそうした例があります。・・・と書いてあったような・・・。


100人に2人。

2%・・・?

2%の貧乏くじ引いちゃったってか、アタシ?


ボーっと聞いていた私に担当医師ボーイズのリーダーは淡々とこう言った。


「出血が見られる以上、安静解除は延長します。今はまだ血腫が大きくなる可能性もありますのでこのまま絶対に上体を起こさないよう維持して下さい。
そうですね・・・安静解除は、週明けにしましょう」



・・・?


週明けて。


今日金曜だけど?!月曜ってこと?!!


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!それまでこのままなんですか?!そんなに長く?!何でそんなに掛かるんですか?!」

怒鳴りたくもなるだろう。
身も心も解放された気分でいた所、再び理不尽に拘束されたようなものなのだ。

担当医師はここで言ってはいけない余計な一言も付け加えた

「日曜はスタッフがおりませんので、その間に安静解除して何かあっては困りますから・・・」


は?!

あんたらが勝手に失敗しておいて安静解除を延長した上に
あんたらの都合で日曜丸々またぐってこと?!
私は完全にブチ切れ怒鳴り散らした。


「じゃあせめてカテーテルは抜いて下さい!!本当だったもう今は歩ける時間じゃないですか!!せめてトイレ位行けるようにして下さい!!トイレ以外の時間はちゃんとしっかり安静にしていますから!!」

後数日こんな状態でいるなんて耐えられなかった。
しかも昨日~今日に掛けて幸い腹痛も起きなかったけど、後数日何ていったらどうなるか分らない。
この時6人部屋は満床。
私は他の5人に気取られながらコトを致すことになる可能性が出てきたということになる。
それだけは耐えられなかった。
どうしても避けたかった。
怒鳴りつつも最後の方はまさに懇願だった。


この台詞で担当医師は初めて表情をちょっと変えた。
でもその「変化」は私の味方するものではなかった。
彼は実に怪訝そうな顔をしてこう告げたのである。


「・・・この状態の何が嫌なんですか?」


もう私は半狂乱だった。カテーテルの管を掴み怒鳴る。

「ふ、フツーこういう状態は嫌なものだと思いますけど?!」

医師は訳が分らないというような困った顔をし、
「そういう理由ではカテーテルを抜くことは許可出来ません。とにかく安静にして絶対に動かないで下さい」とだけ言うとカーテンの向こうに消えていった。

私のベッドは6人部屋の真ん中部分。
窓もない、壁もない、頼りないカーテンに囲まれた僅か3畳ほどの中に一人取り残された。
自分で動こうと思えば動けるのに自分の意思でそれを押さえなきゃいけない。
このまま走り出してあの医師の背中に蹴りを入れてやることだって出来るのに、それをまたあえて自分の意思で抑え、じっとしていなければいけない・・・悔し涙が溢れた。


絶望という言葉を、そう簡単に使ってはいけないと誰かに言われたことがある。
でもこのときの私は絶望と言う言葉を使っても良かったのではないだろうか。


2%の確率の貧乏くじの罰ゲームは

5日間に及ぶ寝たきり生活。




この時点で私の安静解除までの残り時間・・・70数時間。


Comments

nauさん、あなたを文豪とお呼びしますv-219
だって、その辺の作家よりもリアルな文章!まるで私がその場面に居たかのような感じがしますv-218
さて・・・次はどの様になるのでしょう~

  • [2008/03/23 14:34]
  • URL |
  • ファリママ
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初めまして。
以前からnauさんといねちゃんのブログを拝見させてもらってました。
実はわたしも腎臓悪いんです。蛋白と血尿出続けてます。
けど、医者には行ってません。
以前腎生検を、診療をしてもらったことも無い若い医者に進められたことありましたが
(これは善意だと思います)、進められた病院が金持ち頭悪し(言いすぎ?)
の坊ちゃんが集まる医大だったので、無視してました。
nauさんのブログが非常に参考になってます。
感謝を伝えたくてコメントしました。ありがとう。
しかし医者は人の痛みには鈍感でね。

  • [2008/03/24 09:18]
  • URL |
  • セレステ
  • [ Edit ]
  • TOP ▲

おはようございます(^^)

リアルサスペンス劇場、展開が早いです(^^;
私もそんな状況、耐えられませーーーん!!! 
。。。でも、耐えるしかないのね。

骨折の手術直後に生理になって、
その始末(汗)を看護師さんにしてもらった時ですら悲しかったのに。。。
(でも、こういうことを経験してどんどん鈍感になっていきました(^^;)

患者の痛みに医者は鈍感っていうのは、本当にそう思いましたよ。
事故で怪我の痛みのほかに恐怖心も残ってるのに、
あっちが痛い、こっちが痛いって訴えると「骨が折れるくらいぶつかってるんだから
痛いのは当たり前だ」の一言で終わり。。。
もうちょっと、人間扱いして欲しいもんですよね。

v-286ファリママさま

あったことをそのまま書いているのでリアリティがあるんだと思います(笑)

これからどんどん転げ落ちて行きますので乞うご期待!といった所でしょうか・・・いや、しかし我ながら良くもまぁ耐えたもんだ・・・。

v-286セレステさま

はじめまして、コメントありがとうございます。

私は散々な腎生検でしたけど・・・。
やはりある程度数値がでているのであれば一度キチンと検査なさった方が後々いいかもしれない、とも思います。

私の例はもう本当に100分の2、更にもう一つほとんど無いようなアクシデントに見舞われた稀有な例ですので、ほとんどの人は一日で検査を終え、治療に入ります。

これから腎生検を受ける人が、最初の6時間が辛くても「ま、あのnauの例よりはマシだし」と思って頑張って頂けたら、という気持ちも少しあったりするのです。おこがましいですが・・・

とは言えこんな目に遭うとわかっていたのであればきっと私も受けなかったでしょう。
これはもう本当に当人の判断というか考えに寄るところだと思います。

ただ腎臓は本当に大切な臓器ですのでくれぐれもお大事になさってくださいね。

凄い展開の続くブログですが、何か一つでも参考になる点があったとすれば幸いです。

お互い自分の体を大事にしましょうね!!

v-286ルカさま

私だって「耐えられない!」って思いましたー。でも、そうなんです、耐えるしかない・・・!!

だって動こうと思えば動けるけど、動いたらどうなるか分らない恐怖もあるじゃないですか(号泣)

ちなみに今回は医者・看護師サイドで寝たきりの私に目線を合わせてくれる人はほとんど居ませんでした。
みーんな1メートル以上上から寝たきりの私を見下ろすの。
目線を合わせてくれたのは・・・一番下の研修医だけでしたねぇ。
でもきっと彼もいずれは患者を見下ろす医者になっていくのでしょうか・・・

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